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失感情症と慢性腰痛の関係:感情の苦痛が「身体の痛み」として現れる

公開日:2026/07/15
更新日:2026/00/00

失感情症と慢性腰痛:感情の苦痛が「身体の痛み」として現れる

 自分の感情を認識したり言葉で表現したりすることが困難な特性である失感情症(アレキシサイミア)と、慢性腰痛の密接な関連性を科学的根拠に基づいて解説しています。

 慢性腰痛患者の約5人に1人がこの特性を持つとされ、脳内の感情処理と痛み抑制システムの機能不全が痛みの慢性化や増幅に寄与していることが示されています。

 特に抑うつや不安が失感情症と痛みの支障度を仲介しており、過去の逆境体験がその背景にある可能性も指摘されています。

 治療においては、身体的ケアに加えてアクセプタンス&コミットメント療法(ACT)や認知行動療法などの心理的アプローチを組み合わせる多職種連携の重要性が強調されています。

 患者自身が日常生活で感情と身体感覚を紐付ける練習を行うことで、脳の可塑性を活かした症状改善が期待できるという希望を提示する内容となっています。


目次

  1. 失感情症と慢性腰痛の関係の主要知見を教えてください。

    1. 慢性腰痛患者における高い共存率

    2. 抑うつ・不安(負の感情)の強力な媒介効果

    3. 脳の仕組みから見る「感情と痛みの混同」

    4.  予後への影響と二極化

    5. 有効な治療・介入アプローチ
       

  2. 失感情症とは何ですか?

    1. 3つの特徴

    2. 日常生活での現れ方
       

  3. 脳の仕組み - 感情と痛みのつながりについて教えてください。

    1. 感情と痛みを処理する「3つの共通領域」

    2. 「下降性疼痛制御系」の機能不全(ブレーキの故障)

    3. 感情と痛みの悪循環

    4. 希望のメッセージ:脳は変わることができる(脳の可塑性)

 

  1. 慢性腰痛と心の健康との関わり - 抑うつ・不安・過去の経験について教えてください。

    1. 抑うつ・不安と失感情症の非常に強い結びつき

    2. 抑うつが「失感情症」と「痛み」をつなぐ媒介役(ゲートキーパー)

    3. 過去の経験(早期逆境体験)の影響

    4. 回復における「二極化」の現実

    5. 過去や心の影響を知る「本当の意味」

       

  2. 失感情症が関与する慢性腰痛の治療とケアへの示唆 ―多角的なアプローチ―について教えてください。

    1. 「失感情症」の適切な評価(スクリーニング)

    2. アクセプタンス&コミットメント療法(ACT)の導入

    3. 情動焦点の認知行動療法(CBT)× 理学療法の「掛け算」

    4. 多職種連携(マルチ・プロフェッショナル)アプローチ

    5. 医療者と良好な関係を築く「コミュニケーションのコツ」

    6. 治療への希望

 

  1. 失感情症が関与する慢性腰痛の患者さんへのメッセージ - 日々の生活でできることについて教えてください

    1. 自分の感情に気づく練習(心の声を聴くトレーニング) 

    2. マインドフルネスと呼吸法の活用

    3. 周囲や医療者とのコミュニケーション 

    4. 希望を持って、一歩ずつ進む

       


失感情症と慢性腰痛の関係の主要知見を教えてください。

 失感情症(アレキシサイミア)と慢性腰痛の間には、心理的、神経生物学的、そして治療的な側面において極めて密接な関連があることが最新の研究から明らかになっています。主要な知見は以下の通りです。

慢性腰痛患者における高い共存率

  • 約5人に1人が失感情症: 一般の人々に比べて慢性疼痛を抱える人は失感情症の傾向が有意に高く(効果量 慢性腰痛患者に特化すると約15〜29%(およそ5人に1人)が失感情症の基準を満たすと報告されています
     
  • 感情の認識・表現の難しさ: 失感情症とは、自分の感情を認識したり言葉で表現したりすることが苦手な特性です。身体の感覚(胸のモヤモヤなど)は分かっても、それが「怒り」「悲しみ」「不安」のどれなのか区別がつかないという特徴があります

抑うつ・不安(負の感情)の強力な媒介効果

  • 痛みの直接的な強さよりも、心理的苦痛と強く相関: 失感情症は痛みの強さそのもの()や日常生活の支障()とも相関しますが、それ以上に抑うつ()や不安()といった負の感情と強く結びついています
     
  • 「負の感情」が痛みを悪化させる媒介役: 分析によると、抑うつや不安などの負の感情の影響を統計的に取り除くと、失感情症と痛みの強さ・身体機能障害との関連は有意ではなくなります。つまり、失感情症の人が抱える「感情をうまく処理できないストレス」が、抑うつや不安を増幅させ、それが結果的に痛みや生活上の支障を悪化させていると考えられます

脳の仕組みから見る「感情と痛みの混同」

  • 共通の処理領域: 脳内において、感情と痛みは同じ領域(前島、帯状回、前頭前野など)で処理されています
     
  • 身体的な原因帰属: 脳画像研究によると、失感情症の人は感情刺激に対して「前島」の活動が低下する一方、身体感覚や感覚運動領域での活動が増加する傾向があります。このため、心理的な苦痛やストレスを脳が「身体の痛み」として解釈・変換しやすい(心身症的なメカニズム)という特徴があります

予後への影響と二極化

  • 治療抵抗性と回復の遅れ: 8年間の縦断研究では、失感情症を持たない慢性疼痛患者は良好な回復を示したのに対し、失感情症を持つ患者は抑うつ状態が持続し、痛みも長引きやすいという、明確な二極化傾向が確認されています。感情を適切に表現できないことが、痛みの慢性化や障害の進行に寄与しています

有効な治療・介入アプローチ

  • アクセプタンス&コミットメント療法(ACT): 痛みや不快な感情を排除せず受け入れるACT(全8回セッションなど)は、慢性腰痛患者の失感情症の度合いや不安感受性を有意に低下させることが実証されています
     
  • 多職種連携と理学療法の併用: 感情に焦点を当てた認知行動療法(CBT)は、理学療法(構造化された運動など)と併用することで、身体機能や痛みの強さを最も効果的に改善することが分かっています(心と体への同時アプローチの重要性)

失感情症とは何ですか?

 **失感情症(アレキシサイミア)**とは、自分の感情を認識したり言葉で表現したりすることが苦手な心理的特性を指します。感情そのものを失っているわけではなく、生じている感情をうまく捉えて言葉にするプロセスに難しさがある状態です。

3つの特徴

  1. 感情を見分ける難しさ:自分が今、怒り、悲しみ、不安など、どのような感情を抱いているのかを認識・区別することが難しい。
     
  2. 感情を言葉で説明する難しさ:自分が抱いている感情を、他者に対して言葉で表現することが苦手である。
     
  3. 外への注意(外的志向性):自分の心の内面(気持ちや想像)よりも、外的な出来事や客観的な事実、実務的な物事にばかり注意が向きやすい。

日常生活での現れ方

 日常生活では、以下のような形で現れることが一般的です

  • 「胸がモヤモヤする」「胃がキリキリする」「体が重い」といった身体的な感覚そのものははっきりと分かります
     
  • しかし、その感覚が「怒り」や「不安」といったどのような感情から来ているのかを区別できず、結果として**「ただ調子が悪い」「体調が優れない」としか表現できない**ことがあります

     
 このように、心にかかっているストレスや心理的苦痛を「感情」として処理できず、無意識のうちに**「身体の痛みや不調」として解釈・体験しやすい**という特徴を持っています

脳の仕組み - 感情と痛みのつながりについて教えてください。

 最新の脳画像研究により、「感情」と「痛み」は脳の中で同じ領域で処理されており、神経生物学的に深く結びついていることが明らかになっています。慢性腰痛を抱える方の脳、そして失感情症(アレキシサイミア)の特性を持つ方の脳でどのようなことが起きているのか、具体的な仕組みを解説します。

感情と痛みを処理する「3つの共通領域」

 脳には、痛みの物理的な感覚(どこが痛いか)だけでなく、感情的な側面(どれだけ不快か、どう感じるか)を処理する共通の領域が存在します。特に重要なのが以下の3つの部位です
 

■前島(ぜんとう / インスラ)—— 感情と身体感覚の統合センター

  • 痛み感覚、不快感、さらに注意や予測などの多様な情報を統合する役割を担っています
  • 失感情症の特性を持つ人の脳では、外部からの感情刺激に対して前島の活動が低下する一方、身体感覚や感覚運動領域では前島の活動が増加するという特徴が報告されています。これにより、心の中の葛藤や感情的な苦痛を、脳が「身体の痛み」として体験・解釈しやすくなります(心身症的なメカニズム)

■帯状回(たいじょうかい)—— 痛みの「不快さ」を処理する領域

  • 特に「前帯状皮質(ACC)」は、痛みの不快感という感情的な体験に深く関わっています
  • 慢性腰痛患者ではこの領域の血流や活動に変化が生じており、痛みの感情的な処理システムが通常とは異なっていることが分かっています

■前頭前野(ぜんとうぜんや)—— 痛みの「音量調節ボタン」(司令塔)

  • 脳の司令塔として、痛みの感情的な認識をコントロールし、痛みを上から下へ和らげる調節システムを統括しています
  • 慢性腰痛患者では、前頭前野の灰白質の体積が減少していたり、神経細胞の健康状態を示す脳内物質(NAAなど)のレベルが低下していたりすることが確認されています。また、痛みが強い患者ほど、この前頭前野の活動が低下している(=音量を下げる力が弱まっている)ことも分かっています

「下降性疼痛制御系」の機能不全(ブレーキの故障)

 私たちの脳には、脳から脊髄へ信号を送って、痛みの信号が脳に届く前に弱める**「下降性疼痛制御系」という天然の痛み抑制システム(ブレーキ)**が備わっています

 

 しかし、慢性腰痛患者の脳では、主要な抑制性神経伝達物質である**GABA(ギャバ)作動性の神経回路に調節不全(アンバランス)**が生じています。このため、ブレーキがうまく働かず、本来なら抑えられるはずの痛み信号がそのまま脳に届いてしまい、自発的で持続的な強い痛みとして感じられてしまうのです

感情と痛みの悪循環

  1. **感情をうまく言葉にできない(失感情症の特性)**ため、ストレスや心理的苦痛を「感情」として処理できず、前島の働きによって「身体の痛み」に変換されて増幅します
     
  2. この長引く慢性的な痛みが、さらに前頭前野や帯状皮質といった感情・認知を司る脳の領域に構造的・機能的な変化(体積の減少など)をもたらします
     
  3. 脳が変化したことで感情障害や認知の偏りが生じ、**さらに痛みや抑うつを悪化させるという強固な「悪循環」**が形成されてしまいます

希望のメッセージ:脳は変わることができる(脳の可塑性)

 脳の構造や機能が変わってしまったからといって、回復不可能なわけではありません。人間の脳には、経験やアプローチに応じて変化し、再組織化される能力である**「可塑性(かそせい)」**があります

 実際、感情を受け入れていく心理療法(アクセプタンス&コミットメント療法:ACTなど)や認知行動療法(CBT)によって、失感情症の度合いが低下し、脳の痛み調節システムに良い変化をもたらすことが実証されています
 

 感情の認識や表現を少しずつ練習することは、脳の「音量調節ボタン」を修理し、痛みの体験そのものを変えていく確かな一歩となります

慢性腰痛と心の健康との関わり - 抑うつ・不安・過去の経験について教えてください

 慢性腰痛と心の健康は、単に「腰が痛いから気分が落ち込む」という単純な関係にとどまりません。抑うつや不安、さらには幼少期の過去の経験が、痛みの強さや長引き方に深く関わっていることが科学的に明らかになっています。
 

 具体的には、以下のような関わりやメカニズムが解明されています。

抑うつ・不安と失感情症の非常に強い結びつき

 慢性疼痛を抱える人において、感情の認識や表現が苦手な「失感情症(アレキシサイミア)」の特性は、痛みの強さそのものよりも、抑うつや不安といった心の苦痛と格段に強く結びついています
 

  • 相関の強さの違い:失感情症と「痛みの強さ」の相関(効果量 )や「身体の障害」の相関()は比較的弱いのに対し、「抑うつ」との相関は 、「不安」との相関は と非常に高い数値を示します
     
  • 高い併存率:フィンランドで行われた8年間の縦断研究では、失感情症を持つ慢性疼痛患者のほぼすべてが抑うつを併存していることが確認されました。失感情症の程度が高い患者ほど、不安や抑うつのレベルが高く、生活満足度が低下する傾向にあります

抑うつが「失感情症」と「痛み」をつなぐ媒介役(ゲートキーパー)

 失感情症の特性がどのように腰痛を悪化させるのかを調べた研究から、「抑うつ」がその2つを強力に媒介(中継)していることが分かっています
 

  • 感情の「目詰まり」が痛みを強める:感情をうまく認識・表現できないと、心の中に心理的な苦痛やストレスが蓄積していきます。これが抑うつや不安という形に変わり、最終的に「身体の痛みや生活の支障」を大きく悪化させるという悪循環を生み出します
     
  • 統計的な裏付け:データ分析において、抑うつや不安などの「負の感情の影響」を統計的に取り除くと、失感情症と痛みの強さ・日常生活への支障との関連は消えてしまいます。つまり、失感情症が痛みを悪化させている直接の原因ではなく、そこから生じる「抑うつや不安」が痛みを増幅させているのです

過去の経験(早期逆境体験)の影響

 幼少期のトラウマや、不利な養育環境といった**「早期逆境体験」は、失感情症、抑うつ、そして慢性腰痛を抱えやすくなる根深い素因(きっかけ)**になっている可能性があります

  • 早期不適応スキーマの形成:幼少期のつらい経験に対応するために、脳や心の中に「早期不適応スキーマ(生きづらさの思考パターン)」が形成されます。失感情症と抑うつを併発している慢性疼痛患者は、このスキーマのスコアが最も高いことが報告されています
     
  • 中枢性感作(脳の過敏化)との関連:慢性腰痛患者の背景を探った質的研究では、発症前の文脈として「感情的・身体的なトラウマ」を経験している人が多いことが示されています。こうした過去の経験は、自己評価の低さや、他者を喜ばせようと過剰に気を遣う性格、さらに光や音、不安に対する「過敏性」を育み、脳や脊髄の痛み処理システムを過敏にする(中枢性感作)一因となります

回復における「二極化」の現実

 この心と体のつながりは、治療の経過にも決定的な差をもたらします。8年間の追跡調査において、失感情症を持たない患者は順調に回復していったのに対し、**失感情症を持つ患者は抑うつ状態が長引き、痛みの障害も回復しにくいという「明確な二極化」**が見られました

 過去や心の影響を知る「本当の意味」

 ここで過去のトラウマや心の問題に触れるのは、決して「痛みの原因は気のせいだ」と患者さんを責めるためではありません

  むしろ、「なぜ自分だけがこんなに痛みに苦しむのか」という疑問に対し、心と体の両面から納得のいく答えを見つけ、自分自身を深く理解して優しくケアするためのものです

 

 心と体が繋がっているからこそ、薬や湿布といった身体的治療だけでなく、感情を言葉にする練習や、ストレスに対処する心理的サポートを取り入れることで、この痛みの悪循環を根本から断ち切る道が開かれます

失感情症が関与する慢性腰痛の治療とケアへの示唆 ―多角的なアプローチ―について教えてください

 これまで、脳の仕組みや心の健康(抑うつ、過去の経験)と慢性腰痛のつながりを見てきましたが、これらを踏まえると、治療やケアにおいては「心と体の両面」から同時にアプローチする多角的な手法が極めて重要であることが分かります

 

 具体的にどのようなアプローチや示唆がエビデンス(科学的根拠)から示されているのか、5つの重要なポイントに分けて解説します。

「失感情症」の適切な評価(スクリーニング)

 効果的な治療計画を立てるための第一歩は、患者が感情の認識や表現に難しさを抱えているかどうかを適切に把握することです

  • TAS-20の活用: 世界的に広く使用され、信頼性が確認されている**「Toronto Alexithymia Scale-20(TAS-20)」**などの質問紙を用いて評価を行います
     
  • 個別化の起点: 痛みの訴えの背景にある失感情症や不安のレベルをあらかじめ評価しておくことで、回復が遅れるリスク(予後不良リスク)の高い患者を特定し、その人の状態に個別に調整された治療計画を提案できるようになります

アクセプタンス&コミットメント療法(ACT)の導入

 失感情症の特性を持つ方に対して、近年非常に注目されている心理療法が「ACT(アクト)」です

  • 「戦わない」アプローチ: 痛みや不快な感情を敵として排除しようとするのではなく、「それらがそこにあること」を受け入れ(アクセプタンス)、その上で自分にとって本当に価値のある行動を選択していく治療法です
     
  • 実証された効果: 慢性腰痛を抱える看護師30名を対象とした研究では、全8回(1回90分)のACTプログラムを受けた群において、不安感受性(身体的・認知的・社会的)と、失感情症の特性(感情の認識・表現の困難さ、外的志向性)が有意に低下したことが実証されています

情動焦点の認知行動療法(CBT)× 理学療法の「掛け算」

 慢性腰痛の心理的介入として実績のある「認知行動療法(CBT)」は、身体的な治療と組み合わせることで劇的な効果を発揮します
 

  • 併用による最大の効果: 13,136名が参加した97件のランダム化比較試験(大規模なメタ分析)によると、心理的介入を「理学療法ケア(主に構造化された運動療法)」と併用した場合に、最も高い効果が得られることが分かりました
     
  • 具体的な改善度: 併用したグループでは、身体機能の改善(標準化平均差 1.01)および痛みの強さの軽減(標準化平均差 0.92)において、臨床的に極めて重要な改善が認められています

多職種連携(マルチ・プロフェッショナル)アプローチ

 失感情症を伴う慢性腰痛は、身体、感情、認知、社会生活が複雑に絡み合っているため、一人の専門家だけで解決することは困難です

■各専門家の強みを統合:

  • 理学療法士が運動療法や身体機能の改善を担当する
  • 心理士が感情の言葉化、不適応な認知パターン(早期不適応スキーマなど)への対処を支援する
  • 医師・看護師が医学的な管理や全体調整を行う

     

■このように多職種がワンチームとなって生物心理社会的な状況全体を包括的にサポートすることが、治療への反応を飛躍的に高めます

医療者と良好な関係を築く「コミュニケーションのコツ」

 患者自身が医療チームと協働していくために、受診時には以下のポイントを意識することが推奨されています

  • 「感情」のことも伝えてよい: 診察では、痛みの強さや場所だけでなく、「不安」「焦り」「イライラ」などの気持ちも隠さず伝えてみましょう。もし言葉にできなければ、「うまく説明できないが胸がモヤモヤする」といった身体感覚の表現でも、医療者はあなたの状態を理解する大きなヒントになります
     
  • 過去のつらい経験も開示する: 幼少期の逆境体験やトラウマ、過去のストレスについて話すことは、決して「痛みが気のせい」と言われるためではありません。適切な治療アプローチを選ぶための極めて重要な情報になります
     
  • 心理的サポートを前向きに受け入れる: 心理士の紹介を提案された場合、それは精神の病を疑われたのではなく、「痛みへのブレーキ回路(脳の可塑性)」を修復し、生活の質(QOL)を改善するための前向きな一手段として捉えてみてください

治療への希望

 慢性腰痛と失感情症の関係は一朝一夕には改善しないかもしれませんが、「脳には変化できる力(可塑性)」があり、心と体の両面にアプローチするエビデンスに基づいた確実な治療法(ACTやCBT×運動)が存在します。医療者と手を取り合い、焦らず一歩ずつ進んでいくことで、痛みに振り回されない本来の生活を取り戻すことができます


失感情症が関与する慢性腰痛の患者さんへのメッセージ - 日々の生活でできることについて教えてください

 慢性的な腰痛に悩む中で、「感情がよくわからない」というのは、ご自身が思っている以上に脳や神経の仕組みと深く結びついており、決して珍しいことではありません

 日々の生活の中で痛みの悪循環を和らげ、希望を持って進むために、今日から実践できる具体的なケア方法をご紹介します。

自分の感情に気づく練習(心の声を聴くトレーニング)

 失感情症の特性を持つ方にとって、感情を認識して言葉にすることは簡単ではありませんが、これらは日々の練習によって向上させることができる「スキル」です
 

  • 「感情日記」を1行から始める: 毎日、短い時間で構いません。最初は「胸がモヤモヤする」「体が重い」といった身体の感覚をそのまま書き留めるだけで十分です。慣れてきたら「これは不安かもしれない」「イライラしているのかも」と、少しずつ感情の名前をあてはめてみましょう
     
  • 感情の言葉(語彙)を増やす: 「嬉しい」「悲しい」「怒り」「不安」といった基本の言葉から、「焦り」「落ち着かない」「寂しい」「ほっとする」など、より細やかな感情を表す言葉を意識的に学んでいきましょう。言葉が増えることで、自分の内面を正確に理解できるようになります
     
  • 身体の感覚に意識を向ける: 感情は、胸の締め付け、肩の緊張、胃のムカムカといった身体の感覚として現れることがよくあります。「この身体の感覚は、もしかしたら不安という感情かもしれない」と、感覚と感情を結びつける練習をしてみましょう

マインドフルネスと呼吸法の活用

 今この瞬間に注意を向け、それを判断せずに静かに受け入れる練習は、痛みに対する脳の過敏な反応を和らげるのに役立ちます
 

  • 1日数分間の簡単な呼吸法: 静かな場所に座り、息を吸うとき、吐くときの感覚に意識を向けます。もし他の考えが浮かんだら、それを否定せず、優しく注意を呼吸に戻します
     
  • 痛みを「観察」してみる: 痛みを排除すべき「敵」として戦うのではなく、客観的な「観察対象」として見つめてみます。痛みの強さ、場所、ズキズキや重いといった質を、善悪の判断をせずにただ観察します。「痛みがある」という事実を受け入れつつ、それに圧倒されない練習を重ねることで、不安感受性や失感情症が軽減していくことが研究で示されています

 周囲や医療者とのコミュニケーション

 一人で痛みを抱え込まず、周囲の力を借りることは、回復に向けた強さの表れです

  • 診察で「気持ち」も隠さず伝える: 痛みの場所や強さだけでなく、「最近イライラしやすい」「気分が落ち込む」といった感情面も医療者に話してみましょう。言葉にするのが難しければ、「うまく説明できないけれど、心が重い」といった表現でも、医療者が全体像を理解するための重要なヒントになります
     
  • 心理的サポートを前向きに捉える: 医師から心理士やカウンセラーの紹介を提案された際、「精神的な問題がある」と否定的に捉える必要はありません。これは、痛みとの付き合い方を学び、生活の質を向上させるための極めて有効で前向きな治療選択肢です
     
  • 信頼できる人に相談する: 家族や友人に「今、痛みがあって辛い」と伝えるだけでも、理解とサポートを得られます。また、同じような経験を持つ人と交流できる「患者会やサポートグループ」を活用することも、孤独感を和らげる大きな力になります

希望を持って、一歩ずつ進む

 私たちの脳には、経験や日々の取り組みに応じて変化し、再組織化できる能力である**「可塑性(かそせい)」**が備わっています。感情への気づきを高め、受け入れる練習をすることは、脳の痛み抑制システムを少しずつ変化させ、痛みの体験そのものを改善していくプロセスに他なりません

 

 劇的な変化は一日で起きるものではありません 「今日は日記を1行だけ書く」 「明日は1分間だけ呼吸法を試す」 「次の診察で、医療者に今の気持ちを一つ話してみる」 そうした小さな小さな一歩の積み重ねが、やがて痛みに振り回されない穏やかな生活という、大きな変化につながっていきます。あなたは決して一人ではありません

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[18]J. Liu et al., “Neuroimaging evidence for central mechanisms of acupuncture in non-specific low back pain: a systematic review and meta-analysis,” Frontiers in Medicine, vol. 12, pp. 1657241–1657241, Oct. 2025, doi: 10.3389/fmed.2025.1657241.

[19]Y. Moriguchi and G. Komaki, “Neuroimaging studies of alexithymia: physical, affective, and social perspectives,” Biopsychosocial Medicine, vol. 7, no. 1, pp. 8–8, Mar. 2013, doi: 10.1186/1751-0759-7-8.

[20]Q. Wen et al., “Neuroimaging Studies of Acupuncture on Low Back Pain: A Systematic Review.,” Frontiers in Neuroscience, vol. 15, p. 730322, Sept. 2021, doi: 10.3389/FNINS.2021.730322.

[21]“The Changes of Brain Function After Spinal Manipulation Therapy in Patients with Chronic Low Back Pain: A Rest BOLD fMRI Study,” Neuropsychiatric Disease and Treatment, vol. Volume 18, pp. 187–199, Feb. 2022, doi: 10.2147/ndt.s339762.

[22]D. E. bèze Rimasson, C. Bouvet, and H. Hamdi, “La gestion des émotions et ses déficits, chez les personnes atteintes de douleur chronique : une revue systématisée des études relatives à l’alexithymie, à l’intelligence émotionnelle, à la régulation émotionnelle et au coping,” Psychologie Francaise, vol. 63, no. 1, pp. 51–72, May 2017, doi: 10.1016/J.PSFR.2017.01.001.

[23]J. Clark, J. Clark, P. C. Goodwin, and G. Yeowell, “Exploring the pre-morbid contexts in which central sensitisation developed in individuals with non-specific chronic low back pain. A qualitative study.,” Revista Brasileira De Fisioterapia, vol. 23, no. 6, pp. 516–526, Nov. 2019, doi: 10.1016/J.BJPT.2018.10.012.

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[25]E. K. Ho et al., “Psychological interventions for chronic, non-specific low back pain: systematic review with network meta-analysis,” BMJ, vol. 376, pp. e067718–e067718, Mar. 2022, doi: 10.1136/bmj-2021-067718.

[26]R. V. Aaron, D. Preece, L. C. Heathcote, S. T. Wegener, C. M. Campbell, and C. J. Mun, “Assessing alexithymia in chronic pain: psychometric properties of the Toronto Alexithymia Scale-20 and Perth Alexithymia Questionnaire,” Pain reports, vol. 10, no. 1, pp. e1204–e1204, Dec. 2024, doi: 10.1097/pr9.0000000000001204.

[27]P. Lai et al., “The Emotion Regulation of Acupuncture in Chronic Low Back Pain: A Clinical Neuroimaging Protocol,” Journal of Pain Research, vol. 17, pp. 817–825, Mar. 2024, doi: 10.2147/jpr.s450589.

[28]J. Yang, W. L. A. Lo, F. Zheng, X. Cheng, Q. Yu, and C. Wang, “Evaluation of Cognitive Behavioral Therapy on Improving Pain, Fear Avoidance, and Self-Efficacy in Patients with Chronic Low Back Pain: A Systematic Review and Meta-Analysis,” Pain Research & Management, vol. 2022, pp. 1–15, Mar. 2022, doi: 10.1155/2022/4276175.

[29]M. Hosoi et al., “Relationships among alexithymia and pain intensity, pain interference, and vitality in persons with neuromuscular disease: considering the effect of negative affectivity,” Pain, vol. 149, no. 2, pp. 273–277, May 2010, doi: 10.1016/J.PAIN.2010.02.012.

[30]N. Lankster, “On the nexus of chronic pain, posttraumatic stress, and alexithymia,” vol. 7, no. 1, Nov. 2018.

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